満月教授、ウサギに申す。

生活、社会、政治、健康、その他あらゆる気になることについて嘘偽りなく、本音で楽しく語ります。平和で繋がりの豊かな世の中を目指して。

オリンピック放送にNHKが力を入れる隠された理由

1.オリンピック報道は一石二鳥なのです

為政者は、国民が政治的に無関心になることを一番喜ぶという話が昔からある。

関心がなければ批判も生まれない。批判がなければ変化も望まれず、悪政であっても為政者の地位は安定して継続する。

 

古代ローマの風刺詩人として有名なユウェナリス(60-130)は、

パン(=最低限の食糧)」と「サーカス(=娯楽)」によって、市民が政治的盲目に置かれると揶揄した。

 

そんな風に関連付けると、今日のオリンピックは、もしかすると古代ローマ時代の「サーカス」と同じではないか、と思う時がある。

 

オリンピックでは国旗が揚がり国家が斉唱されてナショナリズムが刺激される。

日々の暮らしや政治に不満があったとしても、自国選手の活躍による誇らしさから溜飲が下がる。

いつしか悪政へのフラストレーションも薄められてしまう…とすれば、政治家にとってオリンピックは、国政批判を和らげ国民を一つにまとめられる点で、一石二鳥である。

為政者にとって、こんなに美味しいイベントはないのであろう。

 

美味しいといえばーーー

赤いサイロ(北海道のチーズケーキ)をモグモグするカーリング娘に目を奪われているだけではいけないことを、賢明な国民ならば察知すべきなのであろう(笑)。

 

本題は、NHKである。

平昌オリンピックが始まる前に、NHKはかつてない程、オリンピックを盛り上げるのに一生懸命だったように見えた。

出場選手の栄光の軌跡や練習状況を事細かくなんどもなんども繰り返し伝え、メダルへの感動ストーリーを演出して盛り上げようとしていた。

実際に始まれば始まったで、オリンピックハイライトや中継の間にも多くの芸能人をスタジオに招くなどして、これまでにはない力の入れようだった。

巨費を投じて五輪の放映権を獲得したのだから、視聴者に沢山見てもらわないと困る、のであろうし、視聴率が上がればNHKの必要性を認識して貰えて受信料契約も進むという組織戦略上の計算もあったであろう。

 

なるほどオリンピックという番組コンテンツは、事前に盛り上げておけばあとは中継するだけで視聴率が荒稼ぎ出来る。しかも政治報道のように、お上に気をつかった挙げ句に文句を言われるような面倒くさいコンテンツとは違うので、NHKにしても一石二鳥の番組なのかもしれない。

 

ただNHKの社会的使命を考えた時に、オリンピック放映に熱心なあまり国民の政治的無関心を招くとしたら、ユウェナリスが危惧する状況を公共放送局が率先して作っていることになるが、それはけっして良いこととはいえないはずである。

 

 

2.NHKニュース番組は、政治報道がお嫌いなのですか?

 

2月25日に平昌オリンピックは閉幕した。冬の熱い戦いは終わったのである。

 

宴の喧騒から冷めて落ち着いた後に、公共放送局としてのNHKは、社会問題や政治的な関心を高める報道をするのだろうか。

 

その意味もあって私は、オリンピック終了後(2月28日)のNHKニュース番組をチェックした。

 

なぜ2月28日だったのかというと、この日は、国会衆議院予算委員会で「働き方改革」関連法案を巡り、国会が混乱した。

裁量労働制に関する不適切データ問題が再浮上した挙げ句、予算委員長の解任決議案が出されるなど、スッタモンダした挙げ句に夜になっても本会議が終わらず継続するという異常事態であった。

 

夜のニュース番組の放映時にも、国会が開かれている最中だった訳だ。

公共放送局ならば、当然、ニュースの冒頭に国会の生中継があっても良いのではないかと思っていた。

 

ところが、国民生活に直結するはずのこの重要なニュースを、NHKのニュース番組では、トップはおろか2番でも3番でもなく、5番目にもってくるという軽んじた扱いをとった。

 

9時台のニュース番組(ニュースウォッチ)の放映ニュースの順番と時間を紹介しておく。

 

①春の強風、春一番の天気(10分)、

②新幹線の台車亀裂の原因調査結果発表(5分)、

③米国の政府高官が最高機密情報倫理に抵触する疑い(5分)、

④iPS細胞の心臓病治療応用を阪大の審査委員会が了承(5分)

⑤国会で来年度の予算案が衆議院本会議で可決する見通し(5分弱)

 

国会報道の取り上げがこれほど後回しにされたのは、予想外だったし、時間も短くて舌足らずな内容であった。

予算委員会の委員長解任決議まで飛び出した混乱の雰囲気はきれいに薄められ、不適切調査データ問題の扱いの顛末も十分に伝えられなかった。

国会で何があったのかをもっと詳しく知りたいと思ったところで、別のニュースにサッと切り替わってしまった。

 

この日取り上げられた幾つかのニュースは、国会報道よりも重要性があったと言えるのだろうか。

 

①春の強風、春一番の天気(10分)は、国民がテレビで知りたいであろう即時性のある情報なので一番目に放送することはまだ理解できる。

②新幹線の台車亀裂の原因調査結果発表(5分)は、大事なことであるが、国会よりも先に来る重要性があるのかどうかは疑問である。

③米国の政府高官が最高機密情報倫理に抵触する疑い(5分)に至っては、「詳しいことはわかっていない」と最後に締めくくるレベルの話だった。

そして④iPS細胞の心臓病治療応用を阪大の審査委員会が了承(5分)は、緊急性のまったく無い一大学の審査委員会のニュースに過ぎずこの日の国会の問題を差し置く内容とは思えない。

 

米国高官の資質問題を気にするなら、北方領土色丹島を「しゃこたんとう」と言い間違えたこの日の沖縄北方担当相の就任会見ニュースの方を取り上げてほしかった。外国ではなく自国の政治家の資質を、日本国民なら気にするべきであろう。

 

NHKの国会報道に関する私の疑問が独りよがりでないかを確認するために、その夜のテレビ朝日報道ステーションと、TBSのニュース23をチェックした。

 

民法のニュース番組の方では、トップは天候のニュースだったが、二番目には、やはり国会ニュースを持ってきた。どちらの放送局も、である。

もちろんNHKよりもはるかに時間を使って詳しく報道していた。政治状況やその背景も可能な限り解説が尽くされていた。視聴者にとってよく理解できる内容だった。

ニュース番組、かくあるべしであった。

 

ここから導かれる推論は、NHKは国会や政治の問題をなるべく扱いたくない、ということである。

 

その姿勢は、「無党派層は寝ててくれ」と口を滑らせたかつての森元首相や、「政治に関心を持たない人が多いことは悪いことではない」と言い放った麻生財務大臣(いずれも与党・自民党)を思い起こさせる。

 

NHKのニュースは、日本の国会の政治の問題や混乱には目を向けさせたくないために、別のニュースをできる限り取り上げると勘繰られても仕方がないのではないか。

 

ちなみに、今日(3月6日)の9時以降のニュース番組をテレビ欄から拾ってみると、やはりNHKは国政問題を避けているように見えてしまう。

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国政に関心を向けさせたくない力が、政権与党から、かけられているのか。

流行語になった忖度は去年だけでもう沢山だと国民は感じているはずなのに。

 

 

3.危ないNHKの生きる道を探しましょう

 

昨年、NHKの受信料聴取について、最高裁判所の合憲判決が出た。

合憲の理由は、NHKが公共放送であるから、国民は受信料を納めなければならないというものだった。

その判決後、NHKの新しい受信契約数は5倍に増えて、これまで受信料を払っていない人が沢山申し込むようになったという。

 

しかし「公共放送」とは何かをめぐっては実は色々と議論のあるところだ。

しかるに最高裁判決の影響でこのまま受信料契約数が増えていくのは、NHKの公共放送としての在り方の問題を置き去りにしてしまうことになり、かえってよろしくないのではないか。

今こそ、NHKの公共性を論ずる時だと私は思う。

 

次回のブログに、NHKが公共放送として生き残っていく道について、別の観点から考えてみたい。

 

以下は、余談です。

昨年8月の「おはよう日本」というNHKの番組で、解説委員の刈谷富士雄氏は、オリンピックのメリットとして真っ先に国威発揚を挙げてしまったそうだ。

しかし五輪憲章の中でオリンピックは国際相互理解の促進こそ謡っているものの、国の威信をかけるなどという前近代的な考え方をとっていないことは有名である。

ヒットラーがオリンピックを国威発揚の場として利用し後に批判されたことも多くの人が知っているはずである。

 

国際関係がキナ臭くなっている今日、国威発揚云々というのも何だか物騒だ。

ある意味で選手がやっているスポーツに過ぎない競技の勝敗に一喜一憂しすぎるマスコミの過剰な報道姿勢も、そろそろ改めるべき時なのかもしれない。

 

NHKの問題の根の深さは、私たちが想像するよりももっと深刻で危ない、ということで、なければ良いと願いつつ、

 

公共放送とは何か、公共放送のあるべき姿を考えたい。